すごく久しぶりの投稿になります。
転職し、贅沢な環境で働いております。
新しい職場では野球選手と多く接する機会がありますので、
今回は野球と解剖学やバイオメカニクスを繋げて色々考えていきたいと思います。
さてさて、
今回は野球選手にとってとてもとてもとても大切な肘について考察していこうと思います。
とても長くなってしまいましたので、暇な時にでも見てください。

肘と言ってもとても奥が深いですよね。
もちろん肘だけの問題ではなく、肩甲骨・胸郭・体幹部・股関節と考えれば考えるほどたくさん繋がっていきます。
今回は肘関節の基本的な解剖からバイオメカニクス的な観点など色々考えていきたいと思います。
では肘の世界にどっぷり入っていきましょう。
肘関節の解剖学(骨・靱帯)
まずは基本的な解剖について考えていきましょう。
骨
肘と前腕複合体は3つの骨と4つの関節から構成され、
肘は腕尺関節と腕橈関節からなります。
また、前腕は橈骨と尺骨から形成される近位橈尺関節と遠位橈尺関節があります。
肘と前腕複合体は3つの骨と4つの関節から構成され、
肘は腕尺関節と腕橈関節からなります。
また、前腕は橈骨と尺骨から形成される近位橈尺関節と遠位橈尺関節があります。
(図では遠位が2つありますが、近位になります)



靱帯
また肘関節には静的安定化機構として内側側副靱帯と外側側副靱帯複合体が存在します。
まずはこの2つについてみていきましょう。
内側側副靱帯(UCL)
前斜走線維束(AOL)・後斜走線維束(POL)・横走線維束の3つの線維束があるとされています。

前斜走線維束(AOL)
・上腕骨内側前下方から起始し、尺骨鈎状結節から遠位に停止しています。
・3つの線維束の中で最も肘関節内側の安定に寄与しています。Morrey BF, 19831
(外反トルクの主要制動機構の一つ)
・野球選手のUCL損傷で最も多いのがこの線維になります。
・近年はこの線維自体にも前・後部線維があるとされており、関節の屈曲角度によって役割が異なるのではと言われています。
後斜走線維束(POL)
・前斜走線維束の後方から起始し、扇状に広がりながら横走線維束の深層に停止する
・肘の屈曲に伴い伸長する。(以下の図)
・この線維束の後縁は後方関節包と強く密着しており、この靱帯が拘縮すると後方関節包の伸長性が失われ肘関節の屈曲制限が起こってしまいます。
横走線維束
・尺骨滑車切痕に沿って走行しており、後斜走線維束を補強しているとされていますが、
実際のところは不明な点が多いです。
またUCLの血流量は遠位に行くほど低下すると言われています。
UCL近位部は回内屈筋群内の動脈からの分枝から血液供給されますが、
遠位部では乏しいのが理由だと考えられています。
前斜走線維束と後斜走線維束は肘の屈曲角度によって外反制動への役割が変わります。
前斜走線維束はどの屈曲角度においても靱帯の緊張が変わりません。
対照に後斜走線維束は深い屈曲角度でしか外反制動に寄与しません。
その結果多くの野球選手が受傷する線維は前斜走線維束がほとんどです。
※近年では前斜走線維束も屈曲角度によって緊張する部分が変わるとも言われています。

さて、
ここからがまた大切な内容です。
このUCLと周囲筋とは”連結”があります。
ではどの筋がUCLと”繋がっている”のでしょうか?
近年では回内筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋、上腕筋の4つの筋が共同腱膜を通してUCLと連結しているとされています。 Otoshi, 20132
後ほど紹介しますが、この4つの筋群とUCLの損傷はやはり大きな関わりがあります。
実際私自身も現場でそのような印象があります。(このあたりは後ほど!)
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外側側副靱帯複合体 (LCL複合体)
内側側副靱帯と比べて意外に軽視せれやすいこの靱帯ですが、やはり重要な役割をになっています。
LCL複合体は大きく分けて3線維(+1)あるとされています。

橈側側副靱帯
・この靱帯は上腕骨外側上顆前方から起始し、輪状靱帯に停止する。
橈骨輪状靱帯
・この靱帯は橈骨滑車切痕の両端から起始し、橈骨頭を包み込むように走行しており、
橈骨頭を安定させることで近位橈尺関節の安定に寄与する。
この輪状靱帯の肥厚が肘関節外側の不安定に寄与することが多いとされています。
外側尺側側副靱帯
・上腕骨外側上顆から起始し、尺骨外側回外筋稜に停止する。
・この靱帯が損傷してしまうことで起こってしまうのが後外側回旋不安定症になります。
橈側側副靱帯と外側尺側側副靱帯は主に内反と後外側方向の安定性に寄与しています。
副靱帯
・この靱帯の起始は回外筋稜の内側部で停止部は橈骨輪状靱帯の下方とされています。
Barnes JW, 20183
※この靱帯に関しては考察している文献が少ないのでなんとも言えません…
LCL複合靱帯もUCLと同様に肘関節の屈曲角度で内反制動の役割が変化します。
肘関節屈曲時には外側尺側側副靱帯が緊張し、橈側側副靱帯が弛緩します。
反対に肘関節伸展時には橈側側副靱帯が緊張し、外側尺側側副靱帯が弛緩します。
さて、
UCLには4つの筋が共同腱膜を通してUCLと連結していましたが、
LCLはどうなっているのでしょうか?
LCLにももちろん”繋がっています”。
まず、橈側側副靱帯には尺側手根伸筋が連結しており、
外側尺側側副靱帯には肘筋が付着していると考えられています。
そして、これらの靱帯と筋で肘関節の外反と後外方の制動機能として作用します。Hackl M, 20164
よく臨床で見られる後外側回旋不安定症(PLRI)はこのLCL靱帯複合体が問題のことが多いですね。
肘関節の解剖学 (筋)
肘関節に直接的に関与する筋としてここでは
①前方 ②後方 ③内側 ④外側に分類してみていきましょう。
①肘関節前方
(上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋・円回内筋)

さて、
ここからそれぞれの屈曲筋について少し考えましょう。
肘関節の屈筋群の中で最も筋力発揮で貢献しているとされているのが上腕筋です。Kawakami, 19945
(もちろん回外、屈曲になると貢献度は下がりますが)
近年この上腕筋は二頭筋と言われており、浅頭と深頭があるとされています。Leonello DT, 20076
上腕筋には非常に大切な役割があり、上腕筋の深頭下外側線維は屈曲時に前方関節包を牽引することでインピンジメントの回避に寄与します。
(確かに個人的に考えても肘関節の不調を訴える選手は上腕筋の異常な緊張が見られることが多いと感じます。)
症例の中でもこの上腕筋に関するものがありましたので紹介します。

中川ら, 20147の症例研究
“上腕骨滑車縁と円回内筋との摩擦が疼痛の原因と思われた 内側型野球肘の一症例”
の中で肘関節伸展時に上腕筋の尺側方向への滑走不全により円回内筋が上腕骨滑車と摩擦が起こり疼痛が起こることが紹介されていました。
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上腕二頭筋もこの肘関節の運動に大きく関わってきます。

特に多いのが上腕二頭筋のタイトネスによる肘関節伸展時の橈骨の後方可動性低下です。
橈骨の後方移動が不足してしまうと伸展時の尺骨外旋が減少してしまいます。
尺骨の外旋が制限されてしまう結果、肘関節の伸展制限が生まれてしまうことになります。
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この腕橈骨筋がオーバーヘッドスポーツではかなり重要になってきます。
まず腕橈骨筋を含む肘関節屈筋群は
投球時の急激な肘関節伸展のブレーキング作用があり、繰り返される投球で筋の緊張は高まってきます。
腕橈骨筋は前腕回内時での求心性収縮と回外時での遠心性収縮において活動が高まります。
また、腕橈骨筋は肘関節伸展時に外反作用があり、
腕橈骨筋のタイトネスは肘関節伸展時の外反増大を引き起こしてしまいます。
ということは、、、
投球動作時の肘関節伸展時にこの腕橈骨筋のタイトネスがある場合
意図せず通常よりも大きな外反ストレスがかかってしまうことになります。
このタイトネスを改善することが肘関節内側の傷害予防につながることが想定されますね。
円回内筋については⑤肘関節内側の筋で紹介したいと思います。
②肘関節 後方

上腕三頭筋が肘関節にとってとても大切なことはみなさん周知だと思います。
まず機能的な役割として
Kholinneらの文献では上腕三頭筋は肩関節の屈曲角度で優位に使われる部位が異なり、
肩関節屈曲0-90°では長頭が優位に使われ、屈曲90°以上では内側頭が優位に使われるとされていました。このように考えてみると普段のウエイトトレーニングでも肩関節の角度を考えて行う必要がありそうですね。(障害予防の観点としては) Kholinne E, 20188

また上腕三頭筋内側頭は肘頭を近位内側に引き込み、肘関節の内反と外旋に作用します。
一方で上腕三頭筋外側頭は肘頭を近位外側に引き込み、肘関節を外反と内旋に作用すると考えられています。肘頭の肘頭窩への適合のためにはこの二頭のバランスは必要不可欠ですね。
また上腕三頭筋内側頭は他の2つと異なり伸展の最終可動域まで筋活動が維持されます。
(長頭、外側頭は伸展に伴い筋活動が減少します) Kholinne E, 20188
そのため、肘関節の伸展制限がおこると上腕三頭筋内側頭の筋活動が抑制されてしまいます。
またこの上腕三頭筋は投球動作でも重要な役割があります。
Buffi JH, 20159の文献では筋-腱内反モーメント・関節圧力・ピッチングにおけるUCLへの負荷をコンピューター上でシュミレーションした文献になります。
下の図で示されているように最大外旋位で最もUCLの制御に貢献している筋は実はTRI(上腕三頭筋)となります。
その次に制動している筋として浅指屈筋(FDS)になります。
つまりは最大外旋時の動的安定性で最も貢献が高いのは上腕三頭筋となります。

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肘筋は尺骨後外側と外側関節包に付着しています。
この筋の起始部では上腕三頭筋外側頭停止部と結合し、腹側では短橈側手根伸筋と結合しています。
この肘筋は前腕回内位での伸展で筋活動が高まります。
この肘筋は肘関節後外側の安定性に寄与しているとされています。
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回外筋は前腕の回外が機能ですが、レバーアームも短いため回外の主導筋は上腕二頭筋になります。
そのため投球における回内・回外運動での貢献率も高くはないと思われます。
実際にエビデンスもあまり見つけられませんでした。
しかし、回外筋には橈骨神経の運動枝である後骨間神経が通る部分(Frohseのアーケード)が存在し、
この部分が絞扼多発部になります。
そのため、後骨間神経が絞扼されることによる下垂指(Drop finger)が引き起こされる可能性はあります。
④前腕 回内筋
(※円回内筋、方形回内筋、橈側手根屈筋)+@腕橈骨筋

方形回内筋(pronator quadratus)について考えていきましょう。
まずこの方形回内筋は前腕の最深層にあるとされています。
この筋の上部を長母指屈筋、深指屈筋が通過しています。
しかし、長期間のギブス固定などで方形回内筋とこの2つの筋の癒着が起こり、滑走不全が起こる場合があるとされています。笠野由布子, & 林典雄. 200910
この方形回内筋は実は2層(浅層・深層)あるとされています。
浅層は回内筋として、深層は遠位橈尺関節の動的安定性に寄与しているとされています。Stuart PR. 199611
円回内筋と橈側手根屈筋に関しては次の章で詳しく見ていきたいと思います。
⑤肘関節内側の筋
さてさて、
みなさん実はこのあたりが一番気になるところではないでしょうか?
円回内筋(PT)、橈側手根屈筋(FCR)、長掌筋、尺側手根屈筋(FCU)、浅指屈筋(FDS)
まずはそれぞれの解剖学的な配置(右肘を内側から)をみてみましょう。

簡単に言ってしまうと、
内側の上から1. 円回内筋 2. 橈側手根屈筋 3. 長掌筋 (4. 浅指屈筋) 5. 尺側手根屈筋
となります。
ではそれぞれの筋をみていきましょう。
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この筋といえば何かと問題視されることが多いのではないでしょうか?
まずこの円回内筋は二頭筋であり、上腕骨頭と尺骨頭の両頭を持ちます。
そしてこの尺骨頭は鉤状結節前方とUCL前斜走線維束(AOL)の前方関節包に付着しています。
またこの円回内筋両頭はともに外反制動の役割があるとされています。
また、佐久間, 202212らによるとこの円回内筋には肘内側の動的安定性に貢献しているとされます。
後にも記述しますが、この円回内筋は前方共同腱を構成し、肘関節内側を安定化させています。
またこの文献では連続投球における円回内筋と橈側手根屈筋の筋疲労と肘関節内側裂隙を測定しており、100球前後の投球による回内筋の筋疲労は肘関節内側裂隙の開大に影響を及ぼすとされています。
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橈側手根屈筋の文献はあまりありませんでした。
しかし、回内筋と同様に前方の共同腱膜を構成します。
そのため肘関節内側の動的安定性に貢献しているとされています。
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この長掌筋と聞くとトミージョン手術を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
ちなみになぜこの筋がトミージョン手術に利用されるのでしょうか?
まずこの筋は一般的に必要ないと言われています。
その理由として、先天的にこの筋を持たない人がいるからです。
Olewnik, 201713らの文献によると92.5%の上肢には長掌筋が存在していると書かれていました。
逆に言えば残りの7.5%の上肢には存在しないということになります。
そして、トミージョン手術にこの筋を使う理由などを記載した文献はあまりありませんでした。
ただ、Optimalなサイズという理由が多かった気がします笑
また、長掌筋がない人や手術を複数回行う方は薄筋を使う場合があるそうです。
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浅指屈筋が肘関節にとって重要と考える方も多いのではないでしょうか?
まずこの浅指屈筋は遠位部で深層と浅層の2つに別れているとされています。Lung, 202314
ここに関しては様々な文献がありますが、
深層は示指と小指から構成されており、浅層は中指と環指から構成されているとされています。
またこの浅指屈筋は肘関節内側支持機構の中で最も筋断面積が大きく肘関節の内反モーメントに貢献しているとされています。
先ほどあげましたBuffi JH, 20159らの筋-腱内反モーメント・関節圧力・ピッチングにおけるUCLへの負荷をコンピューター上でシュミレーションした文献でもFDSは肘関節の内側支持機構の貢献度は高いことが記されています。

またFrangiamore, 201815らの文献ではこの浅指屈筋はUCLの前斜走線維束の遠位約45.6%を覆っているとされています。
野球選手で考えてみると、Ikezu, 202216らの文献では野球選手のUCL損傷99件のうちに屈筋-回内筋にも損傷が見られたのが45件、またその45件の内40件は浅指屈筋の損傷であったとされていました。

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浅指屈筋同様に投球による障害が多いのでこの尺側手根屈筋になります。
このFCUはFDS同様にUCLとの連結があります。
FCUはUCLの後斜走線維束遠位約20.9%を覆っているとされています。
Park, M. C., & Ahmad, C. S. 200417の検体を用いた研究ではFCUとFDSの筋活動が肘関節外反角度を減少させるとされています。
浅指屈筋同じようにこの筋の状態もUCLの障害予防には大切になりそうですね。
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さてさて、
多くの方がご存知とは思いますが、
この前腕内側の筋群は一般的に肘関節外反制動機能の役割があります。
そのため野球を含めたオーバーヘッドスポーツにおいて重要な役割があると考えられます。
ここでもう1つ大切なこととして、先ほどあげました共同腱膜を考えましょう。
この共同腱膜とはいくつかの筋が共同で腱膜を構成し、
その腱膜が動的安定化機構として機能するというものです。
この共同腱膜は大きく分けると2つ存在するとされています。(厳密にはそのようには分かれていない)
1つ目は
前方(浅層)共同腱は円回内筋上腕頭・FCR・長掌筋・FDSの筋間中隔から構成されており、
AOLの前方に連続しています。
2つ目は、
後方(深層)共同腱はFCU・FDSの筋間中隔から構成されており、
AOLの後方に連続しています。
これらの共同腱膜が肘関節内側を動的に安定させています。
しかし、、、
前腕内側の筋群が過緊張などを起こし適切に筋発揮ができなくなってしまうと
動的安定性が低下してしまい、
静的安定性機構であるUCLへの負担が大きくなってしまうことが考えられます。
その結果UCLの損傷につながってしまうことが考えられます。
これらの筋の役割を把握し、適切な評価や選手の起用を考えることが重要になってくるのではないかと思います。
⑥肘関節外側の筋
さてさて、
ここからは肘関節の外側の筋群をみていきましょう。


そもそもこのECRBとECRLはややこしい笑
(ちなみのこのLとはLongusで長、BはBrevisで短を表しています。)
この2つの筋群ですが、ECRLの停止部の方が橈側に付着しているため橈屈の作用が多くあります。
そのため橈屈+伸展動作ではECRLを優位に活動し、伸展のみであればECRBが活動します。
ここから考えられることとして肘関節外側部痛ではないでしょうか?
いわゆるテニス肘(上腕骨外側上顆炎)ではこのECRBのEnthesopathyが影響しているが多いとされていますが、野球ではどうでしょうか?
Nirschl RP,197918
僕の個人的な経験上でも肘関節の外側部痛を訴える野球選手は多くいると思います。
まず、この外側部痛の原因として考えられることとしてECRBのEnthesopathyや輪状靱帯の肥厚による狭窄、ECRBと小頭の摩擦、滑膜ひだの肥厚などが挙げられます。
しかし、これらの病態は慢性的なストレスの結果起こってしまうことが多いと考えられます。
一概にこれをしておけば良いというものはないですが、
ECRLやECLBの機能改善や分離運動は非常に大切になってくるのではないかと思います。
個人的な推測にはなるのですが、回内偏位により背屈動作がECRLを優位に使用してしまうと肘関節の外側部痛につながってしまうのではないでしょうか?
また後で出てきますが、腕橈関節の慢性的な軸圧で変異してしまうこともあるのではないかと思います。(この辺りは腕橈関節の章で詳しく記載します。)
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これらの筋も上記と同じようにテニス肘(上腕骨外側上顆炎)に関わっているとされています。
まずこの筋は非常に複雑な構造をしています。
私自身もこの筋を調べているときにややこしいなーと思いました笑
では見ていきましょうか。
この総指伸筋は字の如く第2-5指の中節骨と末節骨に停止する指伸筋と第5指の指伸筋腱に停止する小指伸筋の総称が総指伸筋とされています。
ただこの筋が投球にどのように関わっているのかはなんとも言えません。
文献もなかなか見つかりませんでした。
ただ屈筋群との連動や巧緻性はとても大切だとは思うので、
適切な機能を維持することは重要かと思います。
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この尺側手根伸筋の文献も多くはありませんでした。
しかし、この尺骨手根伸筋は遠位橈尺関節の安定性に寄与するとされていました。
また尺骨上にある尺骨手根伸筋の鞘の切除は手根骨の回内力を40-50%減少させたとされています。
Salva-Coll G, et al, 201219
肘関節の解剖学(神経)
肘・前腕・手関節を支配している神経として
筋皮神経・橈骨神経・正中神経・尺骨神経があります。
ではそれぞれを見ていきましょう。
以下の図は筋皮神経・正中神経・尺骨神経・橈骨神経の神経支配を表した図です。
これを参考にそれぞれの神経について見ていただければわかりやすいかと思います。

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筋皮神経
C5/6頸神経から分岐し、鎖骨の下を通過後は烏口腕筋の内側から外側を貫通します。
そして、上腕筋と上腕二頭筋との間を通過しながらこの2つの筋を支配します。
筋皮神経は上腕二頭筋腱の橈側あたりで外側前腕皮神経となり、前腕の外側の皮膚感覚を支配します。
この神経は烏口腕筋で絞扼されることが多く、神経症状が出ることが多いとされています。
症状としては、
①肘外側の違和感や鈍痛
②上腕二頭筋や上腕筋の筋力低下
③前腕外側の知覚不良
④上腕二頭筋反射の低下・消失
⑤烏口腕筋の圧痛・放散痛
が主に挙げられます。
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正中神経
正中神経は手関節屈筋、手指屈筋、母指球筋を支配しています。
この正中神経を絞扼する好発部位として2つあげられます。
1つ目は円回内筋、2つ目に手根管内です。
この神経症状としては
円回内筋で絞扼されている場合は、
①長母指屈筋
②深指屈筋(橈側2本)
③方形回内筋
④母指球筋
の筋力低下が起こります。
手根管で絞扼されている場合は、
①母指球筋
の筋力低下が起こります。
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尺骨神経
尺骨神経は尺側手根屈筋、深指屈筋(尺側2本)、掌側・背側骨間筋、母指内転筋などを支配しています。
ここでは主に尺骨神経の絞扼について考えていきましょう。
主に好発部位として2つあげられます。
1つは肘関節内側の肘部管、2つ目は手関節内側のギオン管です。
(その他にも筋間中隔、Struthers’ arcade、尺側手根屈筋の二頭の間などがあるとされています。)
この2つの違いとして、
肘関節屈曲保持した状態で症状が強くなると肘部管
症状が変わらない場合はギオン管となります。
肘部管症候群の構造的因子は肘変形性関節症の骨棘による尺骨神経の圧迫(54.5%)、肘内側のガングリオン(8.5%)、肘外反変形(6.5%)とされています。
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橈骨神経
C7/8頸神経から分岐し、上腕三頭筋や手関節伸筋、手指伸筋を支配しています。
また、橈骨神経は肘関節近位付近で深枝と浅枝に分岐します。
2つに分かれるまでは、上腕筋・腕橈骨筋・長橈側手根伸筋・肘筋を支配し、
その後、浅枝は皮膚感覚を支配し、深枝は回外筋を貫通して指の伸筋(総指伸筋・固有指伸筋・長母指外転筋・長短母指伸筋)を支配します。
橈骨神経障害の絞扼部位として、大きく2つあげられます。1つ目は上腕骨背側中央にある橈骨神経溝を通過する部位(高位橈骨神経麻痺)
、2つ目は回外筋を貫通する部位(低位橈骨神経麻痺)です。
この回外筋の貫通部位をFrohseアーケードと言われます。
この神経症状としては、
高位橈骨神経麻痺の場合
①下垂手
②知覚鈍麻
③腕橈骨筋反射の低下or消失
低位橈骨神経麻痺の場合
①下垂指
②神経鈍麻は起きない
前腕や肘の状態を確認(医学的所見など)し、原因に合わせて治療やエクササイズを行うことが大切です。
林典雄, & 岸田敏嗣. (2017). 運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈.
を参考にさせてさせていただきました。
肘関節の解剖学(脂肪体・滑膜)
ここからは軟部組織の中の脂肪体と滑膜についてみていきましょう。
私自身以前までは苦手分野だったこの部分ですが、
選手たちと接する中でとても重要だと感じています。
そもそもこの脂肪体とは何なのでしょうか?
肘関節の場合では、肘の屈曲側に前方脂肪体・肘の後方には後方脂肪体があります。
この脂肪体はそれぞれ重要な役割を担っていると同時に傷害の原因にもなります。
まずこの脂肪体の役割として、
関節周囲の滑走性の向上・衝撃の緩和があります。
また、近年ではこの脂肪体には自由神経終末が豊富に存在し、
侵害受容器があると考えられています。(文献では膝蓋下脂肪体)Dye SF,199820

この脂肪体の形態変化が肘関節において重要な役割を担っているとされています。
まずは前方脂肪体について考えていきましょう。
前方脂肪体と大きく関わりがある筋として挙げられるのが上腕筋です。
この筋は前方関節包との連結があり、また肘関節伸展の制動作用も担っています。
この前方脂肪体の滑走性や拘縮が起きてしまうことで前方のインピンジメントが起こります。
前方関節包・脂肪体の柔軟性、上腕筋の適切な機能維持は必要かと思います。

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次に後方脂肪体を考えていきましょう。
この後方脂肪体と関わりが大きい筋として挙げられるのが上腕三頭筋内側頭でしょうか?
まず肘関節関節屈曲位ではこの後方脂肪体は肘頭窩にあります。
肘関節が伸展していくにつれてこの脂肪体が上腕三頭筋を押し上げながら近位に移動していきます。
また上腕三頭筋の一部(内側頭最深部)が後方関節包と結合しており、この部分が近位に牽引することによって脂肪体の移動を促通しています。林, 199920
これらにより後方脂肪体が肘関節伸展動作に伴い近位へ移動することで肘頭が肘頭窩に適切に収まるようになっています。
しかし、上腕三頭筋内側頭が適切に機能しなかったり、筋が後方関節包を適切に牽引することができなければ肘関節の伸展を遂行することができなくなってしまいます。
後方脂肪体の柔軟性と上腕三頭筋内側頭の機能維持が重要になりそうですね。

肘関節の動作
ここからは肘関節の動作を見ていきましょう。
一般的に言えば
肘関節の動作は屈曲・伸展
前腕の動きは回内と回外
今回はこの動き(屈曲・伸展・回内・回外)をもう少し掘り下げて考えていきたいと思います。
肘関節伸展・屈曲時の腕尺関節の動き
肘関節90°であれば尺骨はニュートラルポジションになります。
そこから伸展・屈曲になるにつれて尺骨は外旋(前腕の回外)運動が起きます。
つまりこの尺骨の外旋運動が制限されれば最終屈曲/伸展ができなくなってしまいます。
この現象に多いのが上腕二頭筋のタイトネスですね。
このタイトネスも伸展制限の大きな原因になってきます。

次に関節包内の動作を見ていきましょう。
以下の図は腕尺関節の関節包内での伸展・屈曲を表した図になります。

では見ていきましょう。
まずは左側の伸展位の方から考えていきましょう。
伸展位では前面にある組織(屈筋群・前部関節包・MCLのAOLの一部)は伸張されます。
後面では後方の関節包と伸筋群が弛緩し、肘頭突起が肘頭窩に入り込みます。
もしこの時に前面に伸長できない組織があるor後面に弛緩できない組織がある場合は可動域制限になってしまいます。
次に右側の屈曲位を考えていきましょう。
屈曲位では後面にある組織(伸筋群・後部関節包・MCLのPOLの一部・尺骨神経)は伸張されます。
前面では前部関節包と屈曲筋が弛緩します。
この時、滑車切痕表面は滑車に対して転がり運動と滑り運動をしています。
腕尺関節の屈曲・伸展はHüter線やHüter三角で評価をすることもできますかね。
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肘関節伸展・屈曲時の腕橈関節の動き
最終屈曲時に橈骨頭の後方偏位
この橈骨の動きがなければ橈骨と上腕骨が衝突してしまい、屈曲制限が起きてしまいます。

以下の図は腕橈関節の関節包内での屈曲を表した図になります。

肘関節屈曲時の腕橈関節では腕尺関節同様に小頭に対して橈骨頭窩の滑りと転がり運動が起きます。
また、屈曲時には関節包前部は弛緩し、関節包後部とLCLは伸長されます。
適切に滑り・転がり運動ができない場合や軟部組織に異常があれば腕橈関節内での屈曲制限が起きてしまいます。
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次に前腕の回内と回外を考えていきましょう。
ここがとてもややこしいと感じるところかと思います。
まず一般的に前腕の可動域平均値として、
回内75°・回外85°とされています。
そして関与する関節は大きく分けて、
腕尺関節・腕橈関節・近位橈尺関節・遠位橈尺関節
の4つがあります。
これら4つの関節のうちどれか一つでも正常な機能ができなければ適切な回内・回外運動ができなくなってしまいます。
では、それぞれを見ていきましょう。
前腕回内時の近位/遠位橈尺関節の動き
前腕の回内時
近位橈尺関節では橈骨頭は掌側・外側・近位偏位します。
遠位橈尺関節では尺骨頭が後方まずに偏位します。
回内位では橈骨と尺骨の接触面が少なくなり、関節の安定性が減ってしまいます。
この安定性を得ようとする結果、
前腕に過度な緊張が起こってしまうのではないかと筆者は思っています。
では詳しい構造を図と一緒に見ていきましょう。

左の図を見ていきましょう。
左は近位橈尺関節の関節包内運動を上方から見た図になります。
この運動は固定された尺骨と上腕骨の周りを橈骨と手根骨が回転することで成り立っています。
この運動時には上腕二頭筋は伸長されます。
次に右の図を見ていきましょう。
右は遠位橈尺関節の関節包内運動を上方から見た図になります。
この運動では固定された尺骨に対して橈骨が転がり・滑り運動で成り立っています。
またこの関節内で適切な運動を行うためには背側関節包靱帯の柔軟性と掌側関節包靱帯の適切な弛緩も必要になります。
前腕回内時の腕橈関節の動き
前腕の回内動作時にこの腕橈関節の動作がとても大切になってきます。
まず腕橈関節での回内は動作は
橈骨頭窩が丸い上腕骨小頭に対して軸回旋することで起こります。
また自動での回内動作時には円回内筋や橈骨に遠位付着する筋群によってこの腕橈関節に大きな軸圧がかかるとされています。
繰り返し起こる軸圧に対して腕橈関節に何か問題が起こることは予想されますね。(滑膜ヒダ障害など)

実際献体を用いた文献では、
回内での貢献は近位/遠位橈尺関節の割合の方が大きいにも関わらず、
腕橈関節の方がより多く消耗されていたとされています。Ahrens, P. M, 200123
この腕橈関節に対しても適切なアプローチが必要になりますね。
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前腕回外時の近/遠位橈尺関節の動き
近位橈尺関節での回外運動は輪状靱帯と尺骨の橈骨切痕によって形成された線維性骨組織の中で橈骨頭が回転することで起きます。
この時、橈骨頭は背側/内側/遠位偏位し、尺骨は内反するとされています。
遠位橈尺関節での回外運動は橈骨の尺骨切痕が尺骨頭に対して同じ方向に転がり、滑ることで起きます。この時、尺骨頭は前方偏位するとされています。
以下の図は近位/遠位橈尺関節を上方から見た図になります。

まず左の図から見ていきましょう。
左は近位橈尺関節の関節包内運動を上方から見た図になります。
この運動は主に回転運動によって成り立っています。
回外時は円回内筋が伸長されるため、この筋に適切な伸長性がなければ制限になってしまいます。
次に右の図を見ていきましょう。
右は遠位橈尺関節の関節包内運動を上方から見た図になります。
この運動では固定された尺骨に対して橈骨転がり・滑り運動で成り立っています。
またこの関節内で適切な運動を行うためには掌側関節包靱帯の柔軟性と背側関節包靱帯の適切な弛緩も必要になります。
肘関節の回外でメインになる関節は近/遠位橈尺関節ですが、
腕橈関節・腕尺関節ももちろん重要になります。
前腕回外時の腕橈関節の動き
この腕橈関節は回外においてもとても重要です。
回内時と同じ様に腕橈関節での回外動作は
橈骨頭窩が丸い上腕骨小頭に対して軸回旋することで起こります。
また、回外での貢献は近位/遠位橈尺関節の割合の方が大きいにも関わらず、
腕橈関節の方がより多く消耗されていたとされています。Ahrens, P. M, 200124
また腕橈関節の接触面は回外時の方が少なく、回内時の方が多いとされていました。新納ら, 200125
前腕回外時の腕尺関節の動き
この動きは回内・回外運動においてあまりに注目されないのですが、
とても重要な役割を持っています。
この腕尺関節は回外時に外旋・内反します。
この動きがないと回内時と同じ様に前腕は適切に回外できません。
この章のまとめとして
肘関節の屈曲・伸展、前腕の回内・回外とありますが、
3次元的に考えていくと上腕骨・尺骨・橈骨の動作が理解できるのではないでしょうか?
そしてなぜその部分に負荷が多く、どの部分に問題があるのかをロジカルに考えることがいいのではないでしょうか?
野球選手でよくある「なんかはハマってないような感じ」などの主訴もこれらの関節を見ていくことで症状の解決につながるのではないでしょうか?
回内/回外動作とUCLの関係性
やはり野球選手で多い傷害として肘、特に内側側副靱帯(UCL)の損傷が多いのではないでしょうか?
この章ではバイオメカニクス的な視点で考えていきましょう。
肘関節の解剖(靱帯)の章でもあったように
UCLは3方向の線維に分かれており、それぞれの線維が重要な役割を担っています。
簡単にまとめると。。。
前斜走線維束
・3つの線維束の中で最も肘関節内側の安定に寄与している。
後斜走線維束
・この線維束の後縁は後方関節包と強く密着しており、この靱帯が拘縮すると後方関節包の伸長性が失われ肘関節の屈曲制限が起こってしまう。
横走線維束
・尺骨滑車切痕に沿って走行しており、後斜走線維束を補強しているとされていますが、
実際のところは不明な点が多い。
まずは解剖学的な動作から考えられるUCLの力学的ストレスを考えていきましょう。
まず、前腕の回内が起こるとき、近位橈尺関節の関節面の接触面積が減少するため関節が不安定になってしまいます。
この不安定な関節を制動するために機能するのが内側側副靱帯の後斜走線維束になります。(伸長ストレスがかかる)
しかし、この腕尺関節の制動のために後斜走線維束が過剰な負荷がかかることになります。
さてさて、ここで思い出していただきたいこととして、
この内側側副靱帯の後斜走線維束は後方関節包と密着しているということです。
この後斜走線維束に過剰な負荷がかかり、拘縮してしまうことで後方関節包にも影響が出てしまい、
肘関節の屈曲制限が出てしまうということです。
もちろん回内・回外動作での影響以外にも多くの要因が考えられます。
また間接的なUCLへの外反ストレスの増加も考えられます。
あげればキリがありませんが、
肩甲骨の機能不全(scapular dyskinesis)、上腕骨後捻(humeral retrotorsion)、胸郭の機能不全、
骨盤帯の機能不全、足部の感覚異常などたくさん考慮するべき点があります。
これをれさえすれば大丈夫というものは当然ありませんが、
それぞれの問題に対して適切な負荷、環境を提供し、Optimalなポジションで動作を学習することが良いのではないかと思います。
もちろん、野球選手などは投球自体を改善する必要も出てくる場合もあると思いますが、、、。
あとは動作の多様性(Degree of freedom)を身につけていくことも大切になってきそうですね。
物理と投球動作
野球だけではありませんが、この物理というものは各競技にとても重要となってきます。
まずは基礎であるニュートンの運動3法則を考えましょう。
1. 慣性の法則
止まっている物体は力を加えない限り止まり続け、動いている物体は力を加えない限り動きを続ける法則、物体はその時点での状態を保とうとする性質があるということ
2. 運動方程式
物体の加速度は物体に作用する力に比例し、物体の質量に反比例する (F=ma)
3. 作用反作用の法則
ある物体Aが物体2に力を加えると、物体2から逆向きの力が働く
それぞれを少し詳しく考えていきましょう。
1. 慣性の法則
『外力を受けない物体の加速度は0』
これが基本になります。
加速度が0ということは物体が静止しているか等速直線運動をしているかのどちらかになります。
もし、摩擦力や空気抵抗などの外力が存在しなければ物体は外力が加わるまで等速直線運動をします。宇宙空間などは空気抵抗が存在しないので物体は等速直線運動をしますね。図1
しかし、実際には空気抵抗や摩擦力があるので物体は止まる訳ですね。図2

2. 運動方程式
運動方程式とは簡潔に書くと
F(力)=m(質量)×a(加速度)
これを置き換えた形である
a(加速度)=F(力)÷m(質量)
となります。
また重要な事項として
・物体にカが加わると同じ方向に加速度が生じる
・物体は加わった力に比例した加速度を持つ
・加速度の大きさは物体の質量に反比例する

より大きな質量の物体を動かすにはより大きな力が必要
加速度を上げるためには質量を小さくする必要
という感じになる訳です。
3. 作用反作用の法則
これも簡単に説明すると
物体にかかる2つの力は同じになり、その力の方向は必ず逆方向になる
わかりやすい図としてスプリントを考えていきましょう。

図は地面を押すことで得られる作用を進行方向への反作用へ利用することで前に進むことができます。
そのため推進力を上げるためには水平方向への力発揮を効率よく行うことが重要になります。
さてさて、
ここから投球につなげていきましょうか。
この慣性を考える上で必要な用語として、質量と慣性モーメントがあります。
質量とは並進運動における慣性(動きにくさ)のこと
慣性モーメントとは回転運動における慣性(動きにくさ)のことを指します。
投球を基本として考えると、
運動としては並進と回転が組み合わさって行われます。
そのためこの2つの要素を考えることが投球にとても大切になってきます。
今回は肘についてなので、
肘と質量・慣性モーメントを考察しましょう。
肘と質量・慣性モーメント
肘関節を考える上で大切なこととして、先ほど紹介した質量と慣性モーメントです。
ここでいう慣性モーメントとはいわゆる回転のしにくさを表しています。
このモーメントが大きいと回転しづらく、小さいと回転しやすいとなります。
(長いバットでのスイングは回転しづらく、短いバットだと回転しやすいイメージです)

つまりは回転モーメントの小さい体の中心部は回転しやすく、
モーメントの大きい体の末端部分は回転しにくいとなります。
「なんかよくわからないな?」と思われるかもしれませんが、
結局のところ何が言いたいのかというと…
身体の中心に近い部分の速度を上げれば末端の部分の速度も上がるということです。
ただ中心部の速度を上げれば良いのではなく、中心部の速度を末端に伝える能力ももちろん大切になります。
まずボールを投げるためには
指先←手関節←肘関節←肩関節←肩甲胸郭関節←体幹部←股関節←膝関節←足関節←足部←地面
と関与する部分がとても多くになります。
このあたりの所謂”連動性”や力発揮の出力とコントロールが大切になります。

基本的には
動作は体の末端部にいくほど筋の力発揮は減り、慣性が多くなります。
逆に言えば体の中心(投球動作でいうと下肢)の力発揮は増えて、慣性が少なくなるということです。
しかし、もし身体の中心に近い部分でのコンディショニング不良や疲労があれば力発揮が減り、末端の力発揮が増えてしまいます。そのため末端部(肘や肩関節)の異常な張りやコンディショニング不良が発生してしまうことが考えられます。
例えば…
肩甲胸郭関節の不良(Scapular dyskinesisなど)があればそれを代償する形で肘関節への外反トルクは増えてしまいます。
また形態異常としてhumeral retrotorsion(上腕骨後捻)が大きければ肩関節外旋可動域が増大し、内旋可動域が減少してしまいます。その結果肘関節への外反ストレスも増大してしまいます。
また、内旋可動域の制限により肩関節後方のタイトネスにもつながってしまうことも考えられます。
また下半身と球速や回転数を記している文献もいくつかありました。
Wang, 202322らの文献では下半身のパワーと球速・回転数の関係性について書かれていました。
投球動作において体幹部や下半身が大切というのは意外にも理にかなっているということですね。
しかし、ここからが野球の難しいところでしょうか?
下半身の出力が上がったとしても必ずしもパフォーマンスにつながるかと言われたら難しいのです。
野球の場合は考慮すべき変数が多すぎるのです。
軸足の出力や力の発揮方向、踏み出し足が並進運動で産出された力を適切に受け止めコントロールできるかなどなど考えればキリがないほどです。
そのパフォーマンスを上げてくれる可能性があるのがやはりそれぞれの専門家なのかな?と考える訳であります。
身体のコンディショニング管理を適切に行うと同時に
Contextualなスキルドリルや考え方を行うことが有効なのではないかと思います。
(このあたりは私も勉強不足でもっと頑張らないといけません)
P.S.
えらく投稿に時間がかかってしまいました。
職場も変わり、生活環境も変わり、
毎日充実した日を過ごすことができています。
年末年始で少し時間ができましたので、
昨年からずっと書いていた記事を完成させることができました。
今年からは毎月1-2つの記事は書いていきたいと思います。
また時間がある時に見ていただければ嬉しいです。
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