【もっと深く知る】斜角筋

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Anatomy

今回は前回の【もっと深く知る】胸鎖乳突筋に続いての頸部筋シリーズとして
次に厄介になるであろう筋

斜角筋

今回はこの筋を深く知っていこうと思います。

みなさまの中でこの斜角筋についてどのような印象をお持ちでしょうか?
・硬くなりやすい
・腕神経叢を圧迫
・胸郭出口症候群の原因
・呼吸筋

このような感じでしょうか?

ではこれらも含めて今回はこの斜角筋を一緒に紐解いていきましょう。
では、斜角筋の世界へ参りましょう。

斜角筋の基礎解剖

ではでは、まずは斜角筋を3つの構造に分けて考察していきましょう。
(実はそれぞれの筋は文献によって若干異なるので、知っているものと少し違うかもしれません。
もちろんこれが正解というわけでもありません。怒らないでください)

前斜角筋と中斜角筋、そして第1肋骨の間には斜角筋隙(fissura scalenorum)があり、その間を腕神経叢と鎖骨下動脈が通過しています。
また、肩甲舌骨筋も前斜角筋と中斜角筋の間を通っていますね。3)

斜角筋は骨の付着部の固定状態に依存して作用が変わります。
頸椎が固定される場合は、吸気を補助するために肋骨を挙上させます。
一方で肋骨が第1・2肋骨が固定された場合は頸椎を動かします。

ここで考えていただきたいのは、人には個別性があるわけです。(Physiologic Variants)

そうなんです!!人は誰一人として同じ人はいないのです!!

ある人は前斜角筋がなかったり、片方しかなかったり、
停止部が第1肋骨だけではなく、2・3まであったりなど、、、
教科書通りにはいかない人間の身体に面白さを感じますね。1)

そう考えると教科書通りに完璧に起始停止を覚えることはどうなんでしょう。
ある程度の位置を把握して、筋の走行をしっかり理解することが実は良いのかもしれませんね。

隠されし第4の斜角筋(最小斜角筋)

恥ずかしながら僕、この筋の存在を今回初めて知りました笑
斜角筋って3つじゃなかったんだ…
解剖学の本に載ってました?笑

ちなみに、、、
この最小斜角筋(minimum scalene)はAlbinus Muscle、 Sibson Muscleとも言うそうです。
(シブソン筋膜というと…どこかで聞いたような…うむ🐸)

では、この隠されし最小斜角筋を考察していこうと思います。
まずは基本構造から見ていきましょう。

Natsis K, Totlis T, Didagelos M, Tsakotos G, Vlassis K, Skandalakis P. Scalenus minimus muscle: overestimated or not? An anatomical study. Am Surg. 2013 Apr;79(4):372-4. PMID: 23574846.から引用・翻訳

上の図からもわかるように最小斜角筋は斜角筋三角部の間に位置していることがわかると思います。
この位置関係から腕神経叢が最小斜角筋によって圧迫されることも考えられそうですね。
そのため胸郭出口症候群が出現してしまう可能性も多くありそうです。
また、停止部がシブソン筋膜であると考えると努力性呼吸を日常的に行ってしまうことで最小斜角筋の筋緊張や肥大も起こってしまうことも考えられます。

最小斜角筋の有無で胸郭出口症候群の発生割合とか変わるのでしょうかね?
どなたか文献などご存知でしたら教えてください笑

斜角筋と胸郭出口症候群

先ほど少し登場した胸郭出口症候群をもう少し深く考えていきましょう。
胸郭出口症候群(TOS)の原因となる部分として一般的に言われているのが、
斜角筋三角部・肋鎖間隙部・小胸筋間隙部でしょうか。
今回は斜角筋を中心に考えていきますので、斜角筋三角部(Interscalene triangle)を中心に考えていきましょう。
まずは斜角筋三角部をみてみましょう。

Illig KA, Donahue D, Duncan A, Freischlag J, Gelabert H, Johansen K, Jordan S, Sanders R, Thompson R. Reporting standards of the Society for Vascular Surgery for thoracic outlet syndrome. J Vasc Surg. 2016 Sep;64(3):e23-35. doi: 10.1016/j.jvs.2016.04.039. PMID: 27565607.から引用

斜角筋三角部は前斜角筋・中斜角筋・第1 肋骨で形成されているスペースのことです。
この図ではありませんが、先ほどの章で紹介した最小斜角筋はこのスペースの間にあるため、スペース自体が狭くなり、腕神経叢と鎖骨下動脈を圧迫してしまう可能性が高くなりそうですね。
最小斜角筋以外でも前斜角筋の筋肥大のよっての圧迫もあるかもしれません。
この前斜角筋の筋肥大に関しては「斜角筋と呼吸」で書きたいと思います。

斜角筋をどのように適正化するのか?

斜角筋硬いですね!!
リリースしましょうか!!
「グハッ痛い!!効いてますねー」

さて、これは良いのでしょうか?
正直僕わかりません!!

残念ながら、
僕の現能力では徒手で斜角筋を緩めることはできませんし、胸郭出口症候群を根本的に解決することもできません…(もう少し頑張らねば…)

なので今の僕にできることとして、
基本的な解剖学・物理学を中心に考えていきたいと思います。

今回は呼吸バイオメカニクスから考える運動療法を中心に考えていきたいと思います。

ここからは少し実践的な考察になりますので、続けてお楽しみいただければと思います。

斜角筋と呼吸

まずは、
斜角筋の重要な役割の一つでもある呼吸から考えていきましょう。
斜角筋は一般的には呼吸筋としての役割があります。
斜角筋は吸気時に第1肋骨と第2肋骨を上部へ引き上げる機能があり、また、努力性呼吸により斜角筋の動員割合はさらに増えるとされています。4)

ここでいくつか文献を紹介しましょう。

Legrandら5)の健康な成人7名の呼吸と胸鎖乳突筋・斜角筋を観察した文献では、
斜角筋は安静時の吸気でも活動するのに対して胸鎖乳突筋は努力性呼吸時になると活動するとされています。また、A De Troyerら7)の文献でも斜角筋は安静時の吸気で活動すると報告されています。

わかりやすそうな文献があったので紹介させてもらいます。
下の図はHudsonら6)の文献で調査された吸気時に動員される斜角筋(Scalene)と胸鎖乳突筋(Sternomastoid)をEMGで測定した結果です。【FRCは機能的残気量・Vtは1回呼吸量・TLCは総肺気量・Poesは食道内圧(胸腔内圧を求めるもの)】

Hudson AL, Gandevia SC, Butler JE. The effect of lung volume on the co-ordinated recruitment of scalene and sternomastoid muscles in humans. J Physiol. 2007 Oct 1;584(Pt 1):261-70. doi: 10.1113/jphysiol.2007.137240. Epub 2007 Aug 9. PMID: 17690147; PMCID: PMC2277075. fig4から引用


上は斜角筋・下は胸鎖乳突筋を示しています。
そして見ていただきたいのは、MIP(最大吸気圧)とそれぞれの筋の活動傾向です。
斜角筋は最大吸気率が上がるにつれて少しずつ上がってきていますが、
胸鎖乳突筋は40%程度から急激に上がっています。

このことから斜角筋は安静時から活動し、胸鎖乳突筋はある程度負荷が高くなった時から活動することが推測されます。

呼吸や胸鎖乳突筋については過去の記事をご覧ください。

さてさて、
上記の情報から色々考察して見ましょう。

まず、適切な吸気ができなくなってしまったり、
吸気が多くなってしまうと斜角筋が過剰に利用されて筋肥大するのではないかと考えられると思います。
その結果、腕神経叢を圧迫してしまうことも推測されます。

この解決方法として、
“適切な呼吸パターンを学習することで斜角筋の緊張抑制ができる”
可能性が出てきます。

また、
少し面白い動画があったので載せます。
これはメジャーリーグのピッチャーで左右の前斜角筋を比較したものです。

https://www.youtube.com/watch?v=rBNWmVnrJAQ&t=1s

ここまで違いが出るものなんですね。
呼吸不良だけでなく生活習慣や競技特性などによっても前斜角筋は肥大してしまうのですね。
(なんと厄介な筋だ…)

実際に前斜角筋の筋肥大によるTOSはいくつか論文がありました。8)

これらの情報から考察からできることとして、

僕個人的には、

正しい姿勢(ここでいう正しい姿勢とは、過度な緊張がなく、横隔膜を適切に使用して呼吸できている状態)での呼吸を学習し、その動作を維持させることが大切なのではないかと思います。

すごく当たり前のことを言ってますが、
基本的な正しい呼吸を身につけ、
その状態を維持しながら、段階的にさまざまな動作を学習していくのが良いのではないかと思います。

もちろん、
適切な呼吸だけしていれば全て解決できるわけではなく、
精神的ケア・栄養改善・競技特異的なサポートなども必要となりますが、
まずは、正しい呼吸ができるようになり、その後に個別性を加味してのサポートを行うことが重要なのではないかと思います。

アスリート、特に野球のピッチャーなどでは斜角筋を過度に収縮させないような動作学習が必要になるでしょうからね。

斜角筋のバイオメカニクス

次にバイオメカニクス的な関係性から考えていきましょう。

これは私見ですが、
斜角筋が硬くなってしまう(過緊張)原因は
斜角筋が緊張しやすい環境にある
ことが一番大きな要因なのではないかと考えています。

特に前斜角筋は緊張しやすく、他の組織に影響を与えてしまう可能性が高いのではないかと思います。
では、バイオメカニクス的に前斜角筋を考察しましょう。

上記の図は前斜角筋が過緊張を起こしやすいポジション(フォワードヘッド)を表した図になります。

このポジションになってしまうと物理的に前斜角筋が短縮位で固定されてしまい、
筋が常に緊張してしまう状態になってしまいます。

フォワードヘッドの原因は様々だと思いますが、
呼吸・視覚・頭頸部の不安定性などによる斜角筋の過緊張があるのではないでしょうか?

この根本的な原因を解決する方法は
呼吸改善・視覚改善・体性感覚の改善など多岐にわたると思いますが、
それに加えて
適切な姿勢の認識を学習することが大切なのではないかと思います。
(ボディスキーマの認識)

このボディスキーマがあることでその後の運動療法が格段に変わるのではないかと思います。

どんな運動をすれば良いのか?

先ほども述べた通り、
まずはボディスキーマを認識することが必要なのではないかと思います。
簡潔にいうと、
自己と外界の境界線を認識することが大切なのではないでしょうか?

方法は様々あると思いますが、
外的な良い刺激を入れたり、いろんな動きをしたり、視覚・前庭覚・体性感覚に適切な刺激など
様々な刺激を身体に与えてあげることが良いと思います。

そして、
正しい動作を学習するために各筋に適切な抑制 or 活性を行っていくのが良いのではないでしょうか

具体的に上げると、
1. 脊柱の認識
2. 上部頸椎の屈曲筋・下部頸椎の伸展筋の活性
3. 上部頸椎の伸展筋・下部頸椎の屈曲筋の抑制


眼球と頸頸部の分離運動体幹部の安定性の獲得
あたりを行っていくことが良いのではないかと思います。

まとめ

今回は頸部の筋シリーズで斜角筋を取り上げてみました。
僕自身臨床でこの筋に着目することは多いですし、苦戦することも多いです。

しかし、
この筋が緊張しているからこの筋にアプローチするだけではなく、
様々な視点から考察し、包括的なアプローチをおこなうことで結果的に患者さんやクライアントさんが良くなれば良いのではないかと思います。


もう少し短くまとめたいと思っているのですが、いつもなぜか増えてしまいます。
もう少し簡潔にまとめられるようになりたいものです。
どなたか僕に文章の書き方を教えてください…

ということでご愛読いただきありがとうございました!
何かありましたら、いつでもご連絡ください!
叱咤激励大歓迎です。

参考文献

1)
Bordoni B, Varacallo M. Anatomy, Head and Neck, Scalenus Muscle. 2022 Apr 16. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2022 Jan–. PMID: 30085600.

2)
Natsis K, Totlis T, Didagelos M, Tsakotos G, Vlassis K, Skandalakis P. Scalenus minimus muscle: overestimated or not? An anatomical study. Am Surg. 2013 Apr;79(4):372-4. PMID: 23574846.

3)
Neumann, D. A. (2016). Kinesiology of the musculoskeletal system-e-book: foundations for rehabilitation. Elsevier Health Sciences.

4)
Chiti L, Biondi G, Morelot-Panzini C, Raux M, Similowski T, Hug F. Scalene muscle activity during progressive inspiratory loading under pressure support ventilation in normal humans. Respir Physiol Neurobiol. 2008 Dec 31;164(3):441-8. doi: 10.1016/j.resp.2008.09.010. Epub 2008 Oct 4. PMID: 18952011.

5)
Legrand A, Schneider E, Gevenois PA, De Troyer A. Respiratory effects of the scalene and sternomastoid muscles in humans. J Appl Physiol (1985). 2003 Apr;94(4):1467-72. doi: 10.1152/japplphysiol.00869.2002. PMID: 12626472.

6)
Hudson AL, Gandevia SC, Butler JE. The effect of lung volume on the co-ordinated recruitment of scalene and sternomastoid muscles in humans. J Physiol. 2007 Oct 1;584(Pt 1):261-70. doi: 10.1113/jphysiol.2007.137240. Epub 2007 Aug 9. PMID: 17690147; PMCID: PMC2277075.

7)
De Troyer A, Estenne M. Coordination between rib cage muscles and diaphragm during quiet breathing in humans. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1984 Sep;57(3):899-906. doi: 10.1152/jappl.1984.57.3.899. PMID: 6238017.

8)
Hardy A, Pougès C, Wavreille G, Behal H, Demondion X, Lefebvre G. Thoracic Outlet Syndrome: Diagnostic Accuracy of MRI. Orthop Traumatol Surg Res. 2019 Dec;105(8):1563-1569. doi: 10.1016/j.otsr.2019.09.020. Epub 2019 Nov 13. PMID: 31732398.

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