【もっと深く知る】後頭下筋群

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Anatomy

ついにやってきました。

頸部の筋シリーズでおそらく一番難解な筋

後頭下筋

今回はこの筋について紐解いていきたいと思います。

先にですが…
書き終えて改めて思うことがありまして、、、
後頭下筋は
すごく面白くて、
すごく楽しくて、
すごく難しいということです笑

では超大作になってしまった
【もっと深く知る】後頭下筋群

をどうぞお楽しみください。

後頭下筋はどんな筋?

さてさて、
この筋をみなさんどのように思いますか?

・首の後ろのややこしい筋
・緊張しやすい
・筋紡錘が多い

・頭痛と関係している??

この辺りでしょうか?

個人的にはこのあたりの筋を触るのは抵抗があるのですが、
効果的にアプローチすることはかなり有効だと思いますので、
今回はこの後頭下筋を紐解いていきたいと思います。

では、後頭下筋の世界へどっぷり浸かっていきましょう。

基礎解剖

まずは基礎解剖を見ていきましょう。
後頭下筋は、
大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋
の4つに分けられます。
では、それぞれを見ていきましょう。

私自身も感じたのですが、
後頭下筋は比較的小さいものだと思っていたのですが、
実はかなり分厚くしっかりした筋だったのです。

後頭下三角(Suboccipital triangle)

そして、絶対に気を付けなければならない場所が
後頭下三角(Suboccipital triangle)でしょうか?

後頭下三角にはこれだけ大切な神経や動脈があるんです。(椎骨動脈…怖い)
徒手を行うにしても解剖学の理解と危険性を熟知して行う必要がありそうです。

私個人的には、
徒手でのアプローチを行うとしても、
Ib抑制などで過緊張してしまった後頭下筋群の抑制をする位が良いかと思っています。
そして、

筋の過緊張を抑制した後に頭頸部の認知機能向上や運動を行うのが良いかな?と筆者は考えます。

後頭下筋に筋紡錘は多いのか?

頸部には感覚受容器が多いので、闇雲に触りたくはないと考えている筆者ですが…
実際にはそうなのでしょうか?
少し考えてみましょう。

頸部の筋紡錘について書かれた1番有名な文献はKulkarni, 20011)らの論文でしょうか?
海外や日本の文献にも数多く引用されています。(ただ、この文献の対象は胎児です)
他には猫の文献などはありましたが、、、。2)

Kulkarni1)らの文献では、
胎児の後頭下筋群の筋紡錘の割合を研究した内容で頸部の筋紡錘の割合は他の筋に比べて多いことが記されています。

このことからも成人の後頭下筋にも筋紡錘が多いことが推測されます。

ふむふむ!!後頭下筋には筋紡錘が多いのか!!

なるほどです。

筋紡錘の密度が高いということは筋の収縮や伸長を感知しやすいということです。
頸部が過度に伸長される時にいち早く感知し、収縮を促すことは生命を守るためにも大切なことなので納得できますね。

脊髄硬膜と後頭下筋は繋がっているのか!?

みなさん、
Myodural bridgeという言葉をご存知でしょうか?
日本語では筋硬膜橋というのでしょうか。

僕は知りませんでした笑

そして、この筋硬膜橋がものすごく面白いということを僕は知りませんでした。
(いやーこれはすごく面白い文献がザクザク出てくるではありませんか!?
え?CSFのポンプ作用?頸原性頭痛?頭頸部の位置覚?)

ワクワク!!

ではいろいろと文献を漁っていきましょう!!
(しかし、量が多すぎる…そしてワニとか犬とか猫とかの文献が多いなー)

まずはMyodural bridgeについて書かれた文献を見ていきましょう。
この文献はOriginal articleではないのですが、まとめられていてすごくわかりやすいです。
この文献で使用されている文献を孫引きしていくのが面白いです。

Enix DE, Scali F, Pontell ME. The cervical myodural bridge, a review of literature and clinical implications. J Can Chiropr Assoc. 2014 Jun;58(2):184-92. PMID: 24932022; PMCID: PMC4025088.3)

頸部のMyodural bridgeを最初に発見したのはHackら,19954)の文献でしょうか?
Hackらの研究では10体の献体すべてから小後頭直筋と脊髄硬膜との間に連結があることがわかりました。
また、Scaliら, 20135)の文献では大後頭直筋と脊髄硬膜との間にも連結があることが、Pontellら, 20136)の文献では下頭斜筋と脊髄硬膜との連結があると記されています。(これは人によって変わるそうですが)

これら文献から脊髄硬膜と後頭下筋は連結していると言えるでしょう。
(脊髄硬膜と小後頭直筋・大後頭直筋・下頭斜筋)

また、調べていく中でこのmyodural bridgeにはさまざまな役割があることが見えてきました!!

1. 脳脊髄液(CSF)の循環
Zhengら, 20147)によるとmyodural bridgeはCSFのポンプ機能があるとされており、CSFの循環に大きな役割があるとされています。(クモ膜下腔のコントロール)
このmyodural bridgeの機能が破綻するとCSF循環に悪影響が出てしまい、頭痛などの原因になってしまうことが考えられます。

2. 硬膜の緊張コントロール
後頭下筋はmyodural bridgeを通して、硬膜の緊張(dural tension)をコントロールする役割があります。もし、このシステムが破綻してしまうと頸椎の安定性が失われてしまったり、慢性的な頸椎の痛みが起きてしまうことが考えられます。(頭部の伸展で硬膜が挟み込まれるなど)

この2つの問題が起こってしまう原因が
後頭下筋の過緊張、またはhypertrophy(筋肥大)だと考えています。
(もちろん他もたくさんありますが…)
これについては次節に書いていきたいと思います。

後頭下筋のHypertrophyとHypertension (フォワードヘッド)

先ほどの節の最後にも書きましたが、
後頭下筋のhypertrophy(筋肥大)とhypertensionが
頭頸部の異常、または身体の不調の原因になってしまうと考えられるのではないでしょうか?

そして、この原因となってしまうのが紛れもない

フォワードヘッド姿勢

なのではないでしょうか?

毎回フォワードヘッド姿勢(FHP)について書いていますが、
この後頭下筋とFHPの関係性は切っても切り離せない関係だと思います。

では、FHPと後頭下筋について考えていきましょう。

FHP姿勢で一番の問題として、
胸椎後弯+下部頸椎屈曲+上部頸椎伸展姿勢だと思います。

上部頸椎伸展が起こってしまうと後頭下筋群は短縮位で収縮固定されてしまい、
常に緊張状態を保つ必要があります。
もし、筋が常に張力を発揮する必要があるのであれば、自ずと筋は過緊張・肥大していくことが容易に想像できますね。

また、筋の過緊張による感覚-運動機能の不良も考えられますね。(寝違いや鞭打ちの原因?)
後頭下筋には頸部の急激な動作に対する反射機能もあるため(筋紡錘も多いですし)、適切に働くことで頸部の障害予防にも役立ってくれます。
逆に言えば機能不良が起これば頭頸部の障害にも直結してしまうことが考えれらます。

しかし、
このような姿勢は単に後頭下筋の緊張を抑制したからといって改善するわけではありません。
FHPになる根本的な原因があるはずです。
その原因を推測し、包括的なアプローチで改善することが良いのではないでしょうか?

後頭下筋と眼球運動

眼球運動と後頭下筋は関係するのでしょうか?
個人的には関係するのかな?と思っているところです。

後頭下筋と眼球運動の直接エビデンスはなかなか探せなかったのですが、
頸部深部知覚と眼球運動はたくさんありました。
これがまた面白い!!
そしてびっくりするくらい難しい笑

では考えていきましょう。

頸部と眼球と聞いて考えるのが、頸眼反射(COR)でしょうか?
頸眼反射とは、
頸部への刺激によって起こる眼反射のことを指します。


八木ら, 19918)の文献では、
頸部への振動刺激(マッサージ器)を行うと健常者49%が頸眼反射があると記されていました。

ここで思い出していただきたいのが、
後頭下筋には筋紡錘の密度が高いということです。
そして、この筋紡錘への深部刺激によって頸眼反射が起こると考えられます。

むむむ?
ここで色々と繋がってくることが考えられます。

後頭下筋の過緊張により筋紡錘への入力が阻害される→
正しい頸眼反射ができないことが考えられる→
眼球運動に影響が出てしまう??

そして、CORはVORとの相互関係があるとされており、
前庭系の機能が低下するとCORが増加するとされています。(Dichgans, 19739))
また、CORが増加すると前庭系機能が低下することも考えられます。


また、
de Vriesら, 201610)らの文献では非特異的頸部痛がある人はCORが増加すると記されています。

そして、
Ischebeck, 201811)らのsystematic reviewでは、
外傷性頸部症候群(Whiplash)の患者は代償性眼球運動やパスートでの問題が見られる可能性が高いとされていました。

これらのことから
後頭下筋(頸部深部感覚)と眼球運動との関係性は存在しており、
後頭下筋の機能低下が眼球運動に悪影響が出る可能性があるのではないかと思います。

頭痛と後頭下筋は関係するのか?

さてさて、
よく聞く言葉として、
「その頭痛、首からきてますねー」
「ここには後頭下筋があってねー」
「これが固まると頭痛の原因になるんだよねー」
(実際僕も言ったことあります…)

んんん?なぜそうなるのか?本当にそうなのか?
最近になって疑問に思いました笑

脊髄硬膜と後頭下筋でも解説しましたが、

1. CSFの循環不良 (後頭下筋-myodural bridge)
2. 硬膜の緊張コントロール不良 (後頭下筋-myodural bridge)

3. 後頭下筋のsensory-motor function不良

この3つが後頭下筋が原因となる頭痛ではないかと個人的に考えています。

確かに頭痛の原因が頸部からきているとは思いますが、
頸部を触って治るのかは私の知識ではわかりません!!
(筋膜などを知っている人がいるのであれば助けてください!!)

個人的には、
これら3つの問題を徒手・運動療法や感覚統合訓練を通して改善していくのが良いのかと思います。

Ischebeck BK, de Vries J, Van der Geest JN, Janssen M, Van Wingerden JP, Kleinrensink GJ, Frens MA. Eye movements in patients with Whiplash Associated Disorders: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2016 Oct 21;17(1):441. doi: 10.1186/s12891-016-1284-4. PMID: 27769215; PMCID: PMC5074000.table1を翻訳・改変

今回のまとめ

とりあえず、
後頭下筋は難しいです。

安易に触ることはもちろん、
後頭下筋群にのみアプローチするのもどうかと思ってしまいます。

しかし、
後頭下筋群がどのような筋であり、
どのような問題が想定できるのか、他とどのような関わりがあるのかを考えることがとても重要だと思います。

毎回同じことを書いていますが、
包括的なアプローチがとても大切であると思います。

参考文献

1)
Kulkarni V, Chandy MJ, Babu KS. Quantitative study of muscle spindles in suboccipital muscles of human foetuses. Neurol India. 2001 Dec;49(4):355-9. PMID: 11799407.

2)
Richmond FJ, Abrahams VC. Physiological properties of muscle spindles in dorsal neck muscles of the cat. J Neurophysiol. 1979 Mar;42(2):604-17. doi: 10.1152/jn.1979.42.2.604. PMID: 154558.

3)
Enix DE, Scali F, Pontell ME. The cervical myodural bridge, a review of literature and clinical implications. J Can Chiropr Assoc. 2014 Jun;58(2):184-92. PMID: 24932022; PMCID: PMC4025088.

4)
Hack GD, Koritzer RT, Robinson WL, Hallgren RC, Greenman PE. Anatomic relation between the rectus capitis posterior minor muscle and the dura mater. Spine (Phila Pa 1976). 1995 Dec 1;20(23):2484-6. doi: 10.1097/00007632-199512000-00003. PMID: 8610241.

5)
Scali F, Pontell ME, Enix DE, Marshall E. Histological analysis of the rectus capitis posterior major’s myodural bridge. Spine J. 2013 May;13(5):558-63. doi: 10.1016/j.spinee.2013.01.015. Epub 2013 Feb 11. PMID: 23406969.

6)
Pontell ME, Scali F, Marshall E, Enix D. The obliquus capitis inferior myodural bridge. Clin Anat. 2013 May;26(4):450-4. doi: 10.1002/ca.22134. Epub 2012 Jul 26. PMID: 22836789.

Xu Q, Shao CX, Zhang Y, Zhang Y, Liu C, Chen YX, Wang XM, Chi YY, Yu SB, Sui HJ. Head-nodding: a driving force for the circulation of cerebrospinal fluid. Sci Rep. 2021 Jul 9;11(1):14233. doi: 10.1038/s41598-021-93767-8. PMID: 34244586; PMCID: PMC8270937.

7)
Zheng N, Yuan XY, Li YF, Chi YY, Gao HB, Zhao X, Yu SB, Sui HJ, Sharkey J. Definition of the to be named ligament and vertebrodural ligament and their possible effects on the circulation of CSF. PLoS One. 2014 Aug 1;9(8):e103451. doi: 10.1371/journal.pone.0103451. PMID: 25084162; PMCID: PMC4118883.

8)
八木聰明. (1991). 平衡維持に関する頸部入力の役割. 耳鼻と臨床

9)
Dichgans J, Bizzi E, Morasso P, Tagliasco V. Mechanisms underlying recovery of eye-head coordination following bilateral labyrinthectomy in monkeys. Exp Brain Res. 1973 Dec 20;18(5):548-62. doi: 10.1007/BF00234137. PMID: 4212157.

10)
de Vries J, Ischebeck BK, Voogt LP, Janssen M, Frens MA, Kleinrensink GJ, van der Geest JN. Cervico-ocular Reflex Is Increased in People With Nonspecific Neck Pain. Phys Ther. 2016 Aug;96(8):1190-5. doi: 10.2522/ptj.20150211. Epub 2016 Feb 4. PMID: 26847014.

11)
Ischebeck BK, de Vries J, Van der Geest JN, Janssen M, Van Wingerden JP, Kleinrensink GJ, Frens MA. Eye movements in patients with Whiplash Associated Disorders: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2016 Oct 21;17(1):441. doi: 10.1186/s12891-016-1284-4. PMID: 27769215; PMCID: PMC5074000.

小林謙. (1987). 眼球運動の調節における頸部求心系と末梢前庭系の相互作用について. 日本耳鼻咽喉科学会会報90(3), 404-411.

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