前庭感覚の理解

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Brain Science

みなさん、
前庭感覚とはご存知でしょうか?

一般の方でも名前くらいなら聞いたことあると思います。
よく聞くのは車酔いをよくする人に対して、
「三半規管弱いなー」と言ったりすることだと思います。

実際僕も小さい頃はすぐに車酔いをしてしまい、
親にたくさん迷惑をかけていました笑
また、車の匂いにも敏感で嫌な匂いであれば、一瞬で車酔いを誘発してしまうほどでした。

よくよく考えると、
なぜ車酔いで三半規管が弱いと言われるか気になりませんか?

今回はその三半規管とも関係してくる前庭感覚について書いていきたいと思います。

では早速、
前庭感覚の秘密を一緒に紐解いていきましょう。

身体のバランスを取るために必要な3種の神器

まず最初に少し復習もふまえまして…
人は3つの器官を使って身体のバランスを整えています。
視覚・前庭感覚・体性感覚

前回は体性感覚について説明しました。

https://yuto-atc.com/体性感覚について/

前庭感覚とは、
人にとって平衡感覚を維持するための大切な器官の1つです。

では、解説に入っていきましょう。

前庭感覚とは?

前庭感覚とは、
加速度を検出する受容器から構成されていて、人の平衡感覚を司る感覚器の一つです。
前庭器官は左右の内耳に位置し、三半規管と耳石器内にある卵球嚢と球形嚢中の有毛細胞によって構成されています。これらの器官が機能することによって前庭感覚が機能してくれます。


また、左右の前庭器は加速度刺激により一側の興奮性と反対側の抑制性反応が発生し、
両者が統合されて前庭反射を引き起こします。

例えば、
外側半規管に対して右向きの頭部回旋では、右側が興奮・左側が抑制されます。
このように左右の半規管が作用しあって初めて正しく機能することができるのです。

すごくわかりやすい動画も見つけました。
半規管についてわかりやすく載っています。
英語での解説ですので、字幕付きでみられると良いと思います。

では、
これからそれぞれの器官について詳しく見ていくことにしましょう。

半規管(前半規管・外側半規管・後半規管)

半規管は前半規管・外側半規管・後半規管の3つに別れており、その内部はリンパ液で満たされています。
前方向45度(前半規管)、後方向45度(後半規管)、水平方向(外側半規管)の角度でついた管腔があり、それぞれの方向の回転を有毛細胞でリンパ液の流速を感じ取り、頭部の角加速度を認知します。

半規管内部にはリンパ液の流れを感知するクプラというゼラチン質の物質とそれらを支えている有毛細胞です。全ての半規管のクプラがどの方向にどれだけ傾くかによって頭の回る方向や速度がすぐに前庭神経核へ送られます。それによって前庭脊髄反射や前庭動眼反射が起こります。

耳石器

耳石器には卵形嚢と球形嚢の2つの種類があり、耳石でリンパの流れを感知します。
卵形嚢は水平方向、球形嚢では垂直方向の直線加速度や傾きを認知します。
例を挙げると、車や電車が急に発車する時のような直線加速度が加わると耳石の重みでどちらかに毛が傾いて、有毛細胞が興奮します。

耳石器(球形嚢と卵形嚢)

その結果、頭が重力に対してどの方向を向いているか、あるいはどの方向に向いているのかという情報を前庭神経核に送られます。
そして、その情報を元に前庭動眼反射や前庭脊髄反射が起こります。

前庭に関わる反射

前庭脊髄反射
前庭脊髄反射とは、
頭部の位置や加速度の変化に対して、耳石器と半規管に強い刺激が入り、
それを受けて同側の伸展筋群を緊張させることです。

例えを挙げると、
つまずいて、こけそうになった時に頭部が急激に移動しますよね。
その際に耳石器と半規管に刺激が入ります。
そして、転けないように伸展筋群を緊張させて身体をこけないように反らせます。
または、顔をぶつけないように首も伸展させますよね。
これが前庭脊髄反射になります。

前庭動眼反射
前庭動眼反射とは、
頭部運動と反対方向に眼球を動かす反射のことです。
人はこの反射があるため、頭部を動かしても(歩行など)視線を安定の保つことができます。

この現象を神経学的に解説すると以下の図になります。

Khan S, Chang R. Anatomy of the vestibular system: a review. NeuroRehabilitation. 2013;32(3):437-43.より引用

上の図は右を向いた時の、前庭動眼反射を現した図です。
右回旋を行った時には、右内耳の水平半規管内のリンパが左方向に流れ、クプラも左に流されます。
そして、その興奮が前庭神経を通り、前庭神経核(VN)に伝わります。そして、VNから外転神経(VI)に伝わり、左眼球を外転させます。
右眼球では違った経路をしています。
前庭神経核から内側縦束(MLF)を通り、動眼神経(III)に伝わり、右眼球を内転させます。

一方で反対側では抑制されます。では、この図を思い出してみましょう。

興奮している反対側では抑制される

一方の前庭覚が興奮すると反対側は抑制されるのです。
その結果、正しく前庭動眼反射を行うことができるということですね。

前庭自律神経反射
前庭自律神経反射は、
前庭への刺激が脳幹の嘔吐中枢に関係して悪心、冷や汗、顔面蒼白、嘔吐などの自律神経反射を引き起こします。
これが車酔いや乗り物酔いの原因と考えられていました。
しかし、近年の考えは違います。
近年では感覚混乱説が考えられています。

平柳要. (2006). 乗り物酔い (動揺病) 研究の現状と今後の展望. 人間工学42(3), 200-211.より引用・改変

前庭神経核と前庭脊髄路

前庭神経核は大きく分けて4つ内側核・外側核・上核・下核に分類されます。
また、それぞれの投射先は異なります。
外側核→脊髄のみ
上核→眼球運動のみ
内側核→脊髄と眼球運動
下核→脊髄と眼球運動

外側核→脊髄:外側前庭脊髄路
同側の頸髄・胸髄・腰髄の全ての脊髄に投射する。

内側核・下核:内側前庭脊髄路 (内側縦束)
同側と反対側の上部頸髄までの投射する

外側前庭脊髄路 (LVST)
受容器:耳石器
起始核:外側核(ダイテルス核)
作用:興奮性
投射様式:同側性
投射レベル:上肢・体幹・下肢
小脳からの抑制:前葉虫部
機能:同側 上肢・下肢の伸筋に興奮作用
内側前庭脊髄路(MVST)
受容器: 半規管 
起始核:内側核・下核 
作用:興奮性・抑制性
投射様式:両側性
投射レベル:頸部
小脳からの抑制:前庭小脳 
機能:前庭頸反射
杉内友理子. (2021). 前庭脊髄系の解剖と生理. Equilibrium Research80(4), 303-310.より引用

前庭小脳

実は、前庭と小脳には深い関わりがあります。
まず、小脳は入出力の経路と機能から3つに区分されます。
1. 前庭小脳 2. 脊髄小脳 3. 橋小脳

小脳の中で前庭と1番関わりが深いものが前庭小脳になります。
前庭小脳は片葉小節葉にあたり、内耳の前庭器から平衡感覚の入力を受けます。
そして、前庭神経核に出力を出して、頭部と眼球の運動制御と身体の平行を保つ働きがあります。

参考文献

J. T. Reason & J. J. Brand : Motion sickness, Aca- demic Press, London, 1975.

Khan S, Chang R. Anatomy of the vestibular system: a review. NeuroRehabilitation. 2013;32(3):437-43. doi: 10.3233/NRE-130866. PMID: 23648598.

Lopez C. The vestibular system: balancing more than just the body. Curr Opin Neurol. 2016 Feb;29(1):74-83. doi: 10.1097/WCO.0000000000000286. PMID: 26679566.

Shumway-Cook, A., & Woollacott, M. H. (2007). Motor control: translating research into clinical practice. Lippincott Williams & Wilkins.

杉内友理子. (2021). 前庭脊髄系の解剖と生理. Equilibrium Research80(4), 303-310.

平柳要. (2006). 乗り物酔い (動揺病) 研究の現状と今後の展望. 人間工学42(3), 200-211.

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