体性感覚について

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Brain Science

人には様々な感覚器が存在し、
その感覚器を通して、様々な情報を脳へ伝えてくれます。
今回はその分類、そして体性感覚について解説していきたいと思います。

人の感覚の種類は?

人には大きく分けて3つの感覚の分類があります。

  1. 体性感覚
  2. 特殊感覚
  3. 内臓感覚

今回はその中でも体性感覚について触れていきたいと思います。

体性感覚(Somatosensory system)とは?

体性感覚とは、
触覚、温度感覚、圧覚、痛覚などからなる表在感覚、手足の運動や位置を伝える深部感覚、
そして複合感覚の総称のことを指します。

それぞれの感覚には
表在感覚(Superficial sensation)
①触覚②痛覚③温度覚④皮膚痛覚
深部感覚(Deep sensation)固有感覚(Proprioception)
①位置覚②運動覚③振動覚④深部痛覚
複合感覚(Combined sensation)
①立体認知覚②二点識別覚③皮膚書字覚④局在覚⑤重量覚

これらの受容器から得られた信号は、末梢神経に伝わり、脊髄神経節を通って脊髄後根に入ります。
そして、脊髄を上行し、視床を経由して大脳の感覚皮質に送られると共に小脳にも伝達されます。(上行性神経伝達路)
実際に上行する経路は複数あり、それぞれが重要な経路になっています。

下記の内容に関しては、
神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科の荒川高光 先生の【前編】解剖学から学ぶ中枢神経の病態とその把握~脳の解剖学からみる上・下肢の感覚機能障害~を参考にさせていただきました。
https://www.gene-llc.jp

後索路・内側毛体系:

触圧覚、振動覚、深部知覚は同側の脊髄後索を上行し、内側毛体系を通り、視床腹側後外側核を経由して、大脳皮質体性感覚野に到達します。
ここでの感覚は識別性があるものです。
この経路は延髄下部で交差します。
この経路に何かしらの障害が発生すると、触っているのはわかるけど材質感がわからないということになってしまいます。(素材がツルツルかザラザラかなど)
(上半身は楔状束C1-T6、下半身は薄束)

脊髄視床路系:

温度覚、痛覚、触圧覚の一部は脊髄後角から対側(白交連)の前側索を上行し、脊髄網様体路・脊髄視床路を通って大脳皮質体性感覚野に到達します。ここでの触圧覚は識別性のないものです。ここでの識別性のないものとは、「なんとなく触られているな」と感じるようなものです。
識別性のない触圧覚:前脊髄視床路
温度覚:外側脊髄視床路

脊髄小脳路:

脊髄小脳路は主に深部覚を脊髄から直接小脳へ伝達し、姿勢や運動の調節に関与しています。
ここでの感覚は意識に上らない(大脳皮質まで上らない)深部感覚として同側の小脳へ伝達されます。つまりは無意識で歩けるや階段を上がる動作はこの経路がうまく働いてくれているからなのです。毎回意識して歩いていないでしょうからね。
この経路は大きく分けると2つあり、上半身と下半身で異なる経路があります。
上半身は>T6、下半身は<T6となっており、上半身はCNSの第2次ニューロン副楔状束核を介して副楔状束核小脳路を通り、小脳皮質に伝達されます。下半身は第2次ニューロン胸髄核を介して、後脊髄小脳路を通って小脳皮質に到達します。
上半身(上半身は>T6):第2次ニューロン副楔状束核→(副)楔状束核小脳路→小脳皮質
下半身(下半身は<T6):第2次ニューロン胸髄核→後脊髄小脳路→小脳皮質

脊髄小脳路の仕組み

体性感覚の感覚受容器

体性感覚は受容器によって得られる感覚が異なります。
機械受容器: 圧・触・振動・伸展・緊張
温度受容器: 冷・温
化学受容器: 代謝産物・pH・pCO2・pO2・グルコース
侵害受容器: 組織の損傷・熱・捻滅

侵害受容器:

侵害受容器は侵害刺激を感知するための器官であり、刺激を受けるとそれを電気信号に変換して、脊髄後角に入ります。その後、脊髄-視床路・脊髄-橋-腕傍核-扁桃体路・脊髄-視床下部路などの上行路を伝わり、体性感覚・島・前帯状回などの上位中枢に伝達されることで意識にのぼるとされています。
侵害刺激に対して反応するのが主に自由神経終末の侵害受容器(ポリモーダル受容器)であり、皮膚の全層に分布しています。そして、ポリモーダル受容器には、機械・熱・冷・化学に反応します。
この部分に関して書き出すとものすごい量になってしまうので、別の記事で書いていきたいと思います。

ではここからどのように利用していくかを考察していきたいと思います。

糖尿病と体性感覚

体性感覚の機能低下として、大きな問題として考えられるのが糖尿病です。
血糖コントロールが不十分な糖尿病患者は末梢神経障害が起こってしまいます。
その発症機序は図を参照して見てください。2)
末梢神経障害に加えて、血流障害やAGE’s(終末糖化産物)が足部の各組織に悪影響を与えてしまい、結果として、足部の体性感覚の機能低下を引き起こしてしまいます。
その機能低下がHeel rocker時の足関節や膝関節の筋活動の遅延を起こしてしまいます。
そして、歩行の不安定性につながってしまい、
歩行速度の低下・歩隔の拡大・両脚支持期時間が長くなり、足底にかかる圧力も増えてしまいます。2)
その結果、足底筋膜炎などの障害につながってしまうと考えられます。
(Heel rockerの内容は以前の歩行評価の記事を参照ください。https://yuto-atc.com/278/ )

私自身のクライアントさんでも糖尿病を持っておられる方がおられ、足部の体性感覚が少ない方がおられます。その結果、歩行が不安定になってしまったり、ふらつきが増えてしまうことが多いと考えています。転倒予防や障害予防の観点から、足部の体性感覚の向上は必要不可欠であり、
また運動習慣の確立や食事介入などの基礎的な部分も必須になってくると考えています。

ポリオール経路異常から見た糖尿病性神経障害の発症機構, 有村公良, & 出口尚寿. (2009). 糖尿病と末梢神経障害. 日本内科学会雑誌98(2), 399-405.から引用

体性感覚と足関節捻挫


私の母校である立命館大学で指導されておられる寺田昌史先生の研究が素晴らしく面白かったので、
ここでも取り上げさせていただきます。3)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsatj/3/2/3_107/_article/-char/ja/

足関節捻挫の影響で足部の感覚入力が低下してしまうことは周知の事実だと思います。
その原因として考えられることとして、
感覚受容器損傷により中枢神経に感覚情報を伝える回路が遮断されたことが考えられます。
実際、足関節の不安定性がある人とそうでない人を比較したとき、
足関節内反方向の関節位置覚が低下していることが確認されています。4)
加えて、足関節の不安定性がある人は固有受容器である筋紡錘の求心性の神経活動が低下していることも確認されています。5)
これらの感覚神経系の機能低下により、足部の体性感覚の低下が示唆されています。

そして、求心性の感覚神経が低下するということは必然的に遠心性の運動神経も低下するということにもつながってきます。(求心性→知覚→遠心性)
特に足関節外反筋である長腓骨筋反応時間の遅延が足関節不安定性がある患者にあることもHoch et al.が報告しています。6)
また表在感覚の低下も感覚機能障害の大きな要因として挙げられます。
Burcal et al.らは足関節の不安定性を有する患者の足底皮膚機械受容器の感度の低下が見られると報告している。また足根洞上の皮膚機械受容器の感度も低下していると報告されている。7)
つまり、足関節捻挫による体性感覚の機能的はかなりのものがあると言うことです。
機能低下が起こってしまうことにより、再受傷や代償動作による他部位(ACL損傷など)への影響なども考えられます。

バランストレーニングは必要?

これも寺田先生の特集に書かれていた内容ですが、
一般的に言われるバランストレーニング(片足立ちやBOSU)は足関節捻挫後のリハビリテーションでよく用いられるものだと思います。
しかし、その向上したバランス能力は視覚情報の代償で得られたものなので、固有受容器の機能が向上したわけではないと指摘されています。8)
視覚依存の姿勢制御パターンが続くことによって、結果的に体性感覚の機能は低下してしまうというわけです。
体性感覚の機能向上を目標としているのに、その機能を低下してしまうのは本末転倒です。
いわゆる”バランストレーニング”も体性感覚の機能向上を目的に考えていく必要がありそうですね。

ではどうすれば良いのか?

ではどうすれば良いのでしょう?
アプローチの仕方は様々だと思いますが、
視覚依存をなくし、体性感覚に依存できるようにしていくことが大切であると考えます。
固定視ではなく、周辺視野能力を高めることや視覚依存がない状態での”バランストレーニング”・呼吸を整えることによる姿勢制御能力の向上も効果的であると思います。
もちろんですが、自律神経系へのアプローチも同様で周辺視野能力を高めることや呼吸を整えることでのメリットもあると考えられます。
極論を言うと山で鬼ごっこ(周辺視+不安定な地面+視覚依存がない+重心が下がる)とか何かと良いのではないかと考えています笑

個人的な意見

これは個人的な意見ですが、
視覚からの情報が過多になってしまうことが一番の問題であると考えています。
現代において、多くの情報をスマホ一つ得られてしまう世の中です。
しかし、スマホを長時間使用することによっての固定視・姿勢不良・交感神経優位・呼吸不良・視覚依存・筋の過緊張が起こってしまう可能性があると考えています。
もちろん、一つの要因にすぎませんが、
ツールとしてスマホを利用することは賛成ですが、依存のようにスマホを使用することには反対です。
特にスポーツ選手や子供たちが使用する際には注意が必要になりそうですね。

参考文献

  1. 有村公良, & 出口尚寿. (2009). 糖尿病と末梢神経障害. 日本内科学会雑誌98(2), 399-405.
  2. J.S. Wrobel and B. Najafi: Diabetic foot biomechanics and gait dysfunction, J Diabetes Sci Technol, 4–4, 833-845 (2010)
  3. 寺田昌史. (2018). 足関節捻挫に伴う神経的由来の心身機能低下と生活活動制限. 日本アスレティックトレーニング学会誌3(2), 107-116.
  4. McKeon JM, McKeon PO. : Evaluation of joint position recognition measurement variables associated with chronic444-456, 2012.
  5. Needle AR, Charles BBS, Farquhar WB, Thomas SJ, Rose WC, Kaminski TW. : Muscle spindle traffic in func- tionally unstable ankles during ligamentous stress. J Athl Train, 48 (2) : 192-202, 2013.
  6. Hoch MC, McKeon PO. : Peroneal reaction time and ankle sprain risk in healthy adults : a critically appraised topic. J Sport Rehabil, 20 (4) : 505-511, 2011.
  7. Burcal CJ, Hoch MC, Wikstrom EA. : Effects of a Stock- ing on Plantar Sensation in Individuals with and without Ankle Instability. Muscle & nerve, 2016.
  8. Lubetzky AV, McCoy SW, Price R, Kartin D. : Re- sponse to Tendon Vibration Questions the Underlying Rationale of Proprioceptive Training. J Athl Train, 52 (2) : 97-107, 2017

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