原始反射と感覚異常(感覚刺激の重要性)

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Brain Science

今回は原始反射と感覚異常について、乳児期との関連性なども含めて書いていきたいと思います。
実は個人的にかなり興味のある分野でアメリカの大学院時代はテスト勉強の合間を縫ってこのあたりの論文を読んで朝方まで図書館にこもっていたものです。

そして、日本に帰国後もセミナーや書籍などを読んで、
原始反射と発育発達の関連性にとても興味を持ちました。
中でもDr. ロバート メリロの本は何度も読み返しました。
読みやすくて個人的にもすごくおすすめの本です。
この本の内容も記事の後半に出てきます。

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原始反射とはなんでしょうか?

原始反射(Primitive reflex)とは、
個体発生初期、つまりまだ中枢神経系の高次機能が発現していない時期に一過性に出現する反射・反応のことを指します。
簡単にいうと、生まれてまもない赤ちゃんが無意識に行う動作のことです。
(口に指を近づけると咥えてくるようなかわいいやつのことです。
ちなみに、赤ちゃんが寝る前に少し笑うのも反射です…あなたのために笑っているのではありません笑)

一般的には原始反射は一度なくなれば再び出ることはないとされていますが、脳に異常があればもう一度出てしまう可能性もあります。
原始反射は高次機能の発達によって抑制されているため、
その抑制がなくなればまた出てきてしまうということです。
また、高次機能の発達不良によって原始反射が残ってしまうこともあります。

生まれてまもない赤ちゃんの脳は大脳皮質(高次)が発達しておらずに、
より原始的な部分である脳幹などの影響を受けやすい状態になっています。
この脳幹などの影響で起こる本能的な動作が原始反射というものです。
しかし、様々な刺激による大脳皮質の発達にしたがって脳幹が抑制されていき、脳幹などの反射が抑制されていくということです。

超簡単に説明すると原始反射とは、
成長するにしたがって無くなっていく反射のことです。

羽生裕子「脳の発達と障害児の行動」発達プログラム113号 コロロ発達療育センター 2009年

では、もし何らかの原因でこれらの反射がうまく抑制できなければどのような問題が出てきてしまうのでしょうか?
原始反射全てを説明するとものすごい量(30個以上)になってしまうので、今回は脳幹レベルの反射である4つの反射を軸に考えていきたいと思います。

1. 非対称性緊張性頸反射 (Asymmetrical tonic neck reflex(ATNR))
2. 対称性緊張性頸反射 (Symmetric tonic neck reflex (STNR))
3. 緊張性迷路反射(Tonic labyrinthine reflex(TLR))
4. モロー反射 (Moro reflex)

の4つを解説していきたいと思います。

非対称性緊張性頸反射 (Asymmetrical tonic neck reflex(ATNR))

この反射は、
“乳児の顔を片方に回旋させると顔側の四肢は伸展し、頭部側の四肢は屈曲すること”
を指します。

通常では3-9ヶ月で無くなる反射とされています。

これATNR残ってしまうことで
1. 眼球での追従が困難 (パスートができない)
2. 正中線をこえる動きが苦手

3. 文字を読むことが困難
4. 左右の混乱
5. 姿勢不良

などの問題が出る可能性があります。

AMBOSS: Medical Knowledge DistilledのYouTubeより引用

対称性緊張性頸反射 (Symmetric tonic neck reflex (STNR))

この反射は、
“伏臥位で頭部を伸展させると、上肢は伸展、下肢は屈曲します。逆に頭部を屈曲させると上肢は屈曲、下肢は伸展する”
を指します。

この反射は通常では生後6-9ヶ月で発現し、9-11ヶ月で消失するとされています。

STNRが残存してしまうことで、
1. 姿勢不良
2. ハンドアイコーディネーション不良
3. 集中できない

4. 授業に集中できない
5. ボール遊びが苦手
6. 協調が苦手
7. 泳ぐのが苦手

などの問題が出る可能性があります。

RegisteredNurseRNのYouTubeより引用

緊張性迷路反射(Tonic labyrinthine reflex(TLR))

この反射は、
“背臥位では伸展緊張が促通され、伏臥位では屈曲緊張が促通されること”
を指します。

この反射は通常では生後2-4ヶ月で消失するとされています。

TLRが残存してしまうことで、
1. バランス不良
2. 協調性不良
3. 感情のコントロールができない

4. 両眼視障害
5. ケアレスミス
が多い
が起きてしまう可能性があります。

https://harkla.comから引用

モロー反射(Moro Reflex)

この反射は、
”背臥位の子供の頭を少し持ち上げて、頭を落下させると両上肢が伸展・外転し、その後に内転が起こること”
を指します。
また、強い光や音などの刺激によっても反応し、
強い刺激を受けると四肢が伸展し、その後に屈曲するような反射のことを指します。

この反射は通常では生後5-6ヶ月で消失するとされています。

モロー反射が残存してしまうことで、
1. 感覚異常
2. 過覚醒
3. ストレス過多

4. 学習障害
5. 免疫不全
6. 不安症
7. 視覚障害

などが起きてしまう可能性があります。

AMBOSS: Medical Knowledge DistilledのYouTubeより引用

原始反射はなぜ残るのか?

原始反射が残ってしまうことを”原始反射の残存”と呼びます。
最初にも書きましたが、原始反射は高次の脳(主に大脳皮質)の成長にしたがって抑制されていきます。しかし、この大脳皮質の成長が何らかの原因で阻害されてしまうことによって原始反射が残ってしまいます。
この原因として考えられていることとして、
1. 妊娠中の母親のストレス
2. 怪我・病気・慢性的なストレス
3. 子宮内での動作不足
4. 乳児期の動作・刺激不足 (ハイハイの不足や長時間同じ姿勢をとるなど)
5. 他の発育不良

6. 栄養の問題(妊娠中・乳児期)

これらのことを考えると
大脳皮質に様々な刺激を与えることが非常に大切なことであると考えられます。
(体性感覚・視覚・前庭覚などを効果的に刺激してあげる必要がある)

しかし、これらに明確なエビデンスは見つかりませんでした。

Dr. Robert Melliloの著書”薬に頼らず家庭で治せる発達障害とのつき合い方”では、原始反射を乳幼児期に使わなかったため残存してしまうと考えられています。
逆に言うと、その反射を使うことによってこの反射を抑制していくことができるということです。
個人的には体性感覚・視覚・前庭覚の刺激量を増やしてあげて大脳皮質を活性化してあげることによって原始反射が抑制されていくのではと考えています。

原始反射は改善できるのか?

原始反射が原因での問題は多くあると考えています。
授業に集中できない、
文字が読めない、
友達と仲良くできない、
姿勢が悪いなど

これらの問題に原始反射が大きく関わっている可能性があります。
叱りつけたり、注意することによって改善できないのは本当は脳に問題があるからかもしれません。。。

では原始反射の抑制ができればこれらの問題も解決できるのはないでしょうか?

結論から言うと、改善できる可能性があります。
原始反射の原因が大脳皮質の成長不良と考えると大脳皮質に適切な刺激を与えてあげれば原始反射を抑制することができるのではないかと考察することができると思います。

ここで、僕が大好きな著者が書かれた文献を見ていきましょう。

今回は、
Dr. Robert Melilloらの
Persistent Childhood Primitive Reflex Reduction Effects on Cognitive, Sensorimotor, and Academic Performance in ADHD
をご紹介させていただきます。

対象:ADHDと診断された2175人(3.2-22.04歳)
介入:hemispheric-based training program (motor training, sensory stimulation, aerobic and strength conditioning, and academic-cognitive training) 
36セッション・12週間
結果:原始反射の減少が顕著に見られ、運動・認知能力の向上も顕著に見られた。
また、リスニング能力や計算能力の顕著な向上も見られた。

Dr. Robert MelliloのWebサイトにプログラムの5つのエクササイズも紹介されていたので、
ここでも紹介させていただきます。

https://www.drrobertmelillo.comより引用

またエクササイズを行う上の注意点として、
1. 運動は反射が無くなるまで5-10回繰り返す
2. 頻度は強度よりも大切である
3. 動作はゆっくり目的を持って行う
4. モチベーションを持ち、ポジティブに行う
5. 時間をかける

が挙げられています。

また、様々なエクササイズを行うことでさらに大脳皮質に刺激を与えることができ、さらに良い効果が期待できるのではないかと考えられます。

また、
小児神経学的検査チャートと呼ばれる検査シートもあるので、
もし気になるのであれば、専門医に相談することもできます。
日本小児神経学会に詳細もありましたので、リンクを載せておきます。
https://www.childneuro.jp

個人的な考察

現代において、
子供たちの刺激はかなり減少してしまっていると思います。
コロナ禍による遊ぶ時間の減少・遊び場の減少・スマホの普及など

全てが悪影響を与えているとは思いませんが、
便利すぎる社会になってしまうが故に、必要な何かを失ってしまっているのではないかと個人的に考えています。

便利な社会になり、その恩恵を受けられることは素晴らしいことだと思いますが、その反面でデメリットもあるはずです。
そのデメリットを補えるような考え方を持つことが必要なのではないかと思います。

そこで大切なこととして、
体性感覚・視覚・前庭覚
への感覚入力が重要になってくるのではないかと思います。

たくさん触ってあげて、動かしてあげて、声をかけてあげて、揺らしてあげて、
何気ないことがその子の発育に大きく貢献してくれているのだと思います。

参考文献

Gieysztor EZ, Choińska AM, Paprocka-Borowicz M. Persistence of primitive reflexes and associated motor problems in healthy preschool children. Arch Med Sci. 2018;14(1):167-173. doi:10.5114/aoms.2016.60503

Melillo R, Leisman G, Mualem R, Ornai A, Carmeli E. Persistent Childhood Primitive Reflex Reduction Effects on Cognitive, Sensorimotor, and Academic Performance in ADHD. Front Public Health. 2020 Nov 17;8:431835. doi: 10.3389/fpubh.2020.431835. PMID: 33282806; PMCID: PMC7706103.

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